地球環境と木の大切さ 枝廣淳子

一般の方を対象に「地球環境と木の大切さ」
というテーマでお話をさせてもらいました。
枝廣淳子

 

 自宅から、発泡スチロールの食品トレイと、木で作ったトレイを持ってきました。木のトレイは、スギの木を薄く削ったものを数枚貼り合わせて、トレイの形にしたものです。発泡スチロールのトレイにも、わざわざ木目を印刷した紙を貼っているものもありますが、木のトレイは「やっぱり本物!」という感じです。 

 

 

 発泡スチロールと、木のものと、両方のトレイを皆さんにお見せして、質問しました。「同じ大きさのトレイだったら、どちらのコストが高いと思いますか?」皆さんはどう思われますか? 会場の方がほとんど正解だったように、「木のトレイ」の方が高くつくのですね、いまの価格や税金体系では。

 

 次の質問です。「どちらかのトレイをパキッと折って捨てなさい、といわれたら、どちらを捨てますか? もったいなくて捨てられないのはどちらでしょう?」 皆さんはどうですか? 会場のほとんどの方は、「木のトレイのほうがもったいない。発泡スチロールのトレイを捨てる」というほうに手を挙げられました。たぶん、他の人々に聞いても、同じ答えが返ってくることが多いと思います。

 

 「では」と、また聞きました。「木のトレイの原料を作るのにかかる時間はどのくらいでしょうか? 発泡スチロールの原料のほうは、どうでしょうか?」スギの木でしたら、成木になるまで50年とか60年でしょうか。このような木のトレイは、間伐材を利用していることが多いので、もっと短いかもしれません。いずれにせよ「せいぜい数十年」です。

 

 では、発泡スチロールの食品トレイの原料、つまり「石油」を作るのには、何年ぐらいかかるのでしょうか? 
石油は、「化石燃料」といわれるように、「化石」なんですね。石油の起源説にはいろいろありますが、石油や石炭、天然ガスなどの「化石燃料」は、大昔の植物の死骸が数千年かけて化石化したものだ、と考えられています。つまり、地球が石油を作るのには、数千万年かかっているのです。

 

 木は、植えれば育てることができます。「再生可能」です。石油は、油田を掘り尽くしてしまえば、もうありません(数千年待てば別ですが ^^;)。ですから「再生不可能」な資源です。

 

「木のトレイの原料は、せいぜい数十年でできます。木を植えれば再生できる原料です。発泡スチロールトレイの原料は、地球が数千年かけて作ったものです。しかも再生できない。それなのに、みなさんや多くの方々は、発泡スチロールのトレイのほうがもったいなくない、捨てちゃう、とおっしゃる。

 

 そういえばそうだ、何でだろう?と思いませんか。実は、この辺に、いまの日本の林業や森林の抱える問題の鍵のひとつがあると思っています。どうして、そうなのか、そのためにいま、どういう状況になっているのか、話していきたいと思います」と、お話ししたのでした。

 

 「コレステロールの善玉、悪玉と同じように、木にも「切ってはいけない木」と「どんどん切って使わなくてはいけない木」がある、という話や、「人工林の木は、50年で育つ大根だ!」という話をして、「木を大切にする=木を切らない」ではない場合も知ってほしい、と話しました」

 

講演で、日本の木材自給率が20%を切っている、という話をしました。(ちなみに、たった50年前の1950年の自給率は98%もありました!)「それは、日本に、木がないからでしょうか?」と尋ねました。違いますね。日本は国土の67%を森林に覆われている世界トップレベルの森林国です。

 

 講演終了後に、詳しい方が数字を補足してくれましたが、日本の森林の年間成長量(毎年、木が成長して大きくなっている分)は、約7000万立方メートルといわれています。それに対して、年間伐採量は、2000万立方メートルを下回っています。成長分の3分の1〜4分の1しか切っていない、ということです。

 

 そして、日本の年間需要量は、約1億立方メートルです。じょうずに日本の森林が成長する分だけ伐採して使う(=持続可能ということ)ことができれば、海外の森林のお世話になる分量は少しで済むのですね。

 

 「自国の森林は切らずに、海外の原生林をどんどん伐採している!」と海外のNGOから厳しい非難を聞くことがあります。確かに、国内に木はあるのに、自給率が20%を切って、なお下落が止まらないという状況なのです。

 

 「なぜ、日本には木があるのに、海外の木を使うのでしょう?」と私は会場の皆さんに問いかけました。あちこちに聞いても、「外材のほうが安いから」という答えがたくさん返ってきます。

 

 「では、おコメはどうでしょう? 外国米のほうが安いけど、日本のおコメを買う人が多いのはなぜでしょう? 有機野菜も、普通の野菜より高いことが多いけど、それでも買う人が多いのはなぜでしょう?」と聞きました。どうでしょう?

 

 「木材については、消費者が気にしていないからだと思います」とことばを続けました。私だって、何かのご縁で木材業者さんたちの仲間に入れてもらって勉強するようになるまでは、「木材には国産材と外材がある」ということすら、意識したことがなかったのですから!

 

 「自分の家に使われている木材がどこからきているのか」も、「種類や産地によって木は違う性質があること」も、知らない人のほうが多いのではないかと思います。「木についての教育」が小学校から専門過程まで、ほとんどおこなわれていないこと(木だけではなく、鉱物資源などについても同じです)のほか、業界や政府の担当官庁の広報努力の不足なども一因かもしれません。

 

 その点で、「知っていて当然」という業界の認識と、「実は知らない」という一般の人々の実際のギャップを埋める努力が、あちこちで始まっていることは心強い動きです。

 

 各地の業界団体の若手が、小学校で木についての授業をやらせてもらったり、地域のイベントで木について知ってもらう機会を設けたり、消費者と業界の人々がいっしょにグループを作ったり、という活動があちこちから聞こえてきます。

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