健康住宅を考える その1

平成9年度の日本木材青壮年団体連合会の健康住宅研究委員会に出向したときに提出したものです。

 

平成9年度日本木材青壮年団体連合会健康住宅研究委員会副委員長

(株)ムラモト  村本喜義

 

健康問題が、なぜ最近話題になってきたか考えたとき、北海道での北欧型断熱住宅などの考え方を、日本型高気密、高断熱住宅に当てはめ、使用してきたことに起因することが大きいと思います。

本来の木造軸組工法では、あまり問題にしていなかった「シックハウス症候群」にしても、そもそもの出発点は、高気密化による弊害だと思っています。

高気密化での快適さを保つために24時間365日回し続ける換気装置や、高断熱化をするために使う、燃やすと猛毒ガスをだすウレタンフォームなど、電気や機械、化学物質に環境を支配されたスペースが、本当に人間が生きていく上において「快適な」住まいなのでしょうか?


 

 

北欧ではあまり使われないであろう、ベニヤや塩ビシートでの窓枠材や建具。乾式工法によるプラスター使用での表面化粧材(塩ビクロス、接着剤)。高温多湿の気候風土から使用される防腐防虫処理に伴う薬品類。施主のためではなく企業のための謝った考え方による省力化(低価格、工期短縮)。役所のあまり根拠があると思われないような規制(省エネルギー、高耐久)などで、日本の住宅の質が、かつてないほどに低下しているように思えます。

もう一度、木造軸組工法の原点に戻って、「木」本来が持っているすばらしい特性が生きる住宅の良さを考え直したいものです。

 

 

ダイオキシン・ホルムアルデヒド・PCBなどの問題点を、発ガン性だけの方面から危険性を指摘するような報道がなされていますが、本当の問題点は、発ガン性を論じるときに使う単位であるppm(100万分の1)よりもはるかに希薄なppt(1兆分の1)の単位で危険性が指摘されている「環境ホルモン」が人間に与える悪影響は想像を絶するものがあります。

 

1ppm(100万分の1)50mプール5杯分の水にインク10リットル混ぜた濃度

1ppt(1兆分の1)  50mプール5杯分の水にインク一滴落とした濃度


現在の環境濃度測定では、ppmは計測できてもpptは測定できないことが多い。

 

環境ホルモンは、主に自分自身に降りかかる悪影響よりも、自分の子供や、子孫に対してより強い影響をもたらすものです。ここで悪影響の数々を述べるのもいろいろ制限があって全部を書ききれませんが、翔泳社より出版されている『奪われし未来』という本と、コモンズ社から出版されている「健康な住まいを手に入れる本』などの一読をお勧めします。

 

 

住宅に使われる新建材というものから出る揮発性の有害物質(VOC)を原因とする健康への悪影響が大きな社会問題となっています。こうした危険な化学物質を放出する新建材が多用される背景には、消費者の住宅に対する価値判断が大きく関係しているのではないでしょうか?

 

高温多湿の日本には、木や土壁などの呼吸する素材を用いた住宅がもっとも適しています。ところが、「ひび割れや節のない木が良い」といった、見栄えばかり重視する志向が強まってきました。木本来の特性(節がある、割れる、ひびが入る、反る、のび縮みする)を知らない消費者や大工さんが増え、柱に少しでもひびが入ったり、節が多かったりするとすぐにクレームを言うようになりました。工務店でさえ木の特性や無垢材の本当の価格や価値を知らないまま、安くて見栄えばかりの一見クレームの発生しなさそうな素材へと流れていったのです。

 

 

この結果、見栄えは一見良いのだけれど、日本の気候風土に適さず、有害な化学物質が揮発する合板や、プラスチック素材のようなものを使って建てた住宅が量産され始めました。

 


 

有害物質のない本当に住みやすい住宅を取り戻すためには、消費者の価値観を修正しなければならないと思います。少々の隙間や傷や、生活にさほど影響がない問題で、工務店に施工が悪いと騒ぎ立てるような消費者の意識を変えてもらうことが、住宅を健康で安らぎのある空間にしていくためには必要なことなのではないのでしょうか。

 

 

20~30年住み続けたときに、施工者の苦労やありがたさや、住宅の価値観の本質がわかるような、そんな家作りのお手伝いをさせていただきたいと思います。

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